山林火災を防ぐために

山林火災は防げるか? ── 自治体ができる広報と住民への伝え方

近年、大規模な山林火災が増えています。
令和8年に入ってから消防庁のHPに掲載されているものだけでも、10件。
山林火災はいったん燃え上がるとなかなか消えず、住民の多くが避難を余儀なくされます。

2025年2月26日に起きた岩手県大船渡市の火災では、乾燥と強風によって、急速に燃え上がり40日間にわたって延焼しました。延焼面積3370ha、全壊住宅54棟を含む226棟が被災しました。

山林火災はなぜ起きるのでしょうか。なぜ急増しているのでしょうか。
どうやって防げばいいのでしょうか。

この記事ではこれらの疑問を解決しながら、根本的な対策とともに、「防ぐための伝え方」を考察します。

山林火災の6割以上が人為的要因

総務省消防庁の資料によれば、令和4年中の林野火災の出火件数は、1,239件( 資料)。

令和2年から6年の間で発生した林野火災のうち明らかになっている原因は次のとおりです。
・たき火……32.5%
・火入れ……18.9%
・放火……7.1%/疑い含む)
・たばこ……4.1%

6割以上が人為的原因で、落雷など自然現象によるものは稀だとされます。
つまり「防げる火災」だと考えられますよね。

なぜ春に集中するのか ― 発生のメカニズム

令和4年には2月から4月までの3か月間で半数を超える659件の火災が集中して発生しています。
例年この時期に火入れ(*1)が行われること、山菜採りやハイキングなどで入山者が増加することによる火の不始末等が原因であると考えられています。
降水量が少なく、空気が乾燥し、強風が吹く季節であることも、火災を大きくする要因です。

そのため、令和8年の春には、全国で「令和8年全国山火事予防運動」が実施されました。

一度発生するとすぐには消せない ── 山火事のリスク

山火事は一旦発生すると消火は簡単ではありません。人命や家屋を重大な危険にさらします。
貴重な森林資源の回復にも長い年月と多くの労力を要することになります。
長い年月と人手をかけて育成されてきただけに、いったん多面的機能が失われると、その回復は簡単ではなく、何十年もの年月がかかります。失われた尊い人命はかえることはありません。
これまで以上の注意と対策が必要なのです。

住民に求められる行動(予防編)

森林法や市町村の条例などでは火入れやたき火には届けが必要と定めているところもあります。
企業や住民は、こうした法令・条例を守ることはもちろん、各自が年間を通じて火の取り扱いには気をつける必要があります。

【林野火災防止のための注意点】

・条例・法令に従って届出を行う
・乾燥・強風の日は屋外で火を使わない
・たき火やキャンプでは指定された場所以外では火を使わない
・たき火や火入れは複数で行う
・火を使っている間は目を離さない
・消火用の水を必ず用意する
・使用後は完全な消火を心がける
・くすぶっていたら放置しない
・たばこのポイ捨て、火遊びはしない

発生時の初期行動 ― 拡大を防ぐポイント

令和8年1月から全国の多くの市町村で「林野火災注意報」や「林野火災警報」の運用が始まりました。これらは火災予防条例で規定され、市町村長が林野火災の危険性に応じて発令するものです。

また、もし起きてしまったら、一早い消火に努め、拡大を防ぎ、人命を守ることが求められます。
次のような「初期行動」を住民に呼びかけ、被害の拡大を防ぎましょう。

【山火事が起きた!通報と避難を-初期行動の呼びかけ】

①発見したら即座に「119番」
小さな火であっても、山では風に乗って一瞬で燃え広がるため、迷わずすぐに消防へ通報を。
「場所(登山道の名前や目印)」と「火の規模」を落ち着いて伝える。

② 初期消火の判断(無理は厳禁)
炎が自分の背丈より低い場合で、手元に水や土がある場合のみ、初期消火を試みる。 炎が大きくなったり、煙が充満したりした場合は、無理せずに、即座に避難する。

③ 避難の鉄則
・「風上」または「横(風と直交する方向)」へ逃げる(風下は煙と炎が追いかけてくるため極めて危険)。
・山頂ではなく「麓(ふもと)」へ向かって逃げる(火は下から上に向かって燃え上がる性質があるため、上に逃げると袋小路になる)

行動を変えるための広報とは

単に「火の用心」と呼びかけるだけでは変わりません。
当事者意識」と「チャネル(媒体)の使い分け」がポイントです。

【注意喚起のポイント】

被害の大きさを数字で具体
✕ 「山火事に注意しましょう」
○ タバコ1本のポイ捨てが、東京ドーム◯個分の森を奪います。山に暮らす野生動物の命を一瞬で奪います」

「自分も加害者になり得る」

「山火事の約7割は、悪意のない不始末が原因。誰もが加害者になりうる」と伝え、心理的ハードルを下げずに警戒を呼びかける

法的責任がゼロではない

故意ではなく過失であっても森林法違反などの罪に問われる可能性や、莫大な消火費用・損害賠償が発生するリスクはゼロではないこと、厳しい現実も伝える

関連する住民への発信メディアを使う

アウトドア層・観光客へ:登山口やキャンプ場のSNS(InstagramやX)、啓発ポスター、現地の看板設置、登山届アプリでのプッシュ通知。

地域住民(特に高齢層の農家)へ:防災行政無線による夕方の放送、広報紙の折り込み、消防団による地域巡回(声かけ)を行う。

まとめ:山林火災を防ぐための「日頃からの伝え方」

山林火災の多くは、人為的な原因によって発生しています。
つまり、適切な行動によって防ぐことができる火災です。

しかし、単に「火の用心」と呼びかけるだけでは、行動は変わりません。

・なぜ危険なのか
・どのような被害につながるのか
・自分ごととしてどう関わるのか

これらを具体的に伝えることで、初めて行動につながります。

また、発生してしまった場合にも、初期行動の理解が被害の拡大を防ぎます。

危機管理広報において重要なのは、
▶︎ 情報を伝えることではなく、行動を変えることです。

山林火災は、小さな日常の延長線上で起きる大きなリスクです。
だからこそ、日頃からの伝え方が、その発生と被害の大きさを左右します。

*1 火入れ=森林又は森林に接近している周囲1キロメートルの範囲内にある原野、山岳、荒廃地その他の土地で、その上にある立木竹、雑草、堆積物等を面的に焼却する行為のこと。行うには、事前に許可の申請が必要。