夏が来た。いつもと同じではないこの夏をどう迎えて乗り越えるか。

写真はイメージです(クッキーさん,写真AC

最高温度25度C。連休前まではまだ上着が必要だった日本だが、一転して汗ばむ日もあります。
「この暑さでコロナ菌がまいってくれたら好都合だ」と考える向きも多いでしょう。いったん収束してくれれば一息つけると期待したい気持ちもあるでしょう

しかし、今年の夏はこれまでの夏とは違います。本格的な夏までにどれだけ感染を封じ込めるかは分かりませんが、仮に新型コロナの被害を軽減できたとしても、もう一つ大きな課題があります。それは、近年日本の夏を脅かしてきた風水害。

果たして避難勧告を受けて、あっさりと避難所に行けるのか?
避難所の感染リスクはどれだけ低減できるのか?
煽りや脅かしではなく、事前に最大限のリスクを想定しておくことが被害を縮める「縮災化」につながります。今年の新型コロナ感染症がいまだ猛威をふるっていることを考えれば、暑くなったからと簡単に気を緩めることはできません。

その理由は他にも。
特にここ数年、夏から秋にかけての日本に大きな被害をもたらしている風水害との複合災害化です。
新型コロナを災害と位置付ければ、三密になりがちなこれまでの避難所が従来にリスクが高いことは容易に想像できること。

東日本大震災で日本が得た貴重な教訓とは

junchan2525さんによる写真ACからの写真

2011年3月11日14時46分頃に起きた東日本大震災。マグニチュード(M)9は、日本国内観測史上最大規模で、世界史上でも4番目の規模でした。

9年目の春も震災の追悼式などさまざまなイベントが予定されていましたが、新型コロナ感染症蔓延の影響で中止を余儀なくされたのです。
犠牲となった方々のいのちを無駄にしないために日本ができることは、震災の教訓を活かし、いま私たちの目の前にある現状を少しでも改善し、より良い未来をつくることに違いありません。

その前にひとつ再確認しておきたい事実──それは、東日本大震災が「かつてない規模の複合災害であった」ということです。

まず、M9という最大の地震が甚大な被害をもたらした。
そのあとの津波が、多くの人々を家屋や施設とともに飲み込んだ。

「しかし、それでも……原発事故さえなければ」という声は少なくありませんでした。

地震で家屋が倒壊した。津波によって家族を、家屋を失った。それだけでも大変な被害ですが、原発事故は「土壌汚染、海洋汚染」という長期にわたるダメージをもたらしました。
原発事故は、倒れた家を建て直し、家族を思い、生きていこうと前を向こうとする人々に、「この土地では再出発できない」と宣告したようなものでした。

地震+津波+原発事故。
最大級の災害が立て続けに起き、最大の“複合災害”となったことが、被害を甚大化・長期化させたのです。

常に最悪の事態を想定し、備える。それが、災害の被害を少しでも小さくする最善の手段であることを、日本は過去最大級の東日本大震災から学んだはずです。

災害で先手を打つために大事なこと

D850さんによる写真ACからの写真

ますます温暖化が進むこれから、日本でも風水害の被害が年々大きくなっていきます。100年に1回、1000年に1回という規模の台風が立て続けに起きている事実は、“過去のものさしや経験値だけでは測れない未来”がそこにあるということを意味しているのです。

残念ながら、いくら最悪の事態を想定しても、起きる災害を起きないものとすることはできません。台風を食い止めることはできないし、地震については予測さえ困難です。
しかし、最悪を想定することで、起きる被害を小さくすることはできるでしょう。
これからは防災よりも、縮災を旨とする考え方が重要です。

私たちはともすれば、目の前の事態に対処することで懸命になってしまいますが、それでは縮災──被害を小さくすることができません。

これまでの災害対応は、こうです。
・いまそこにある災害に対して、まず最悪最大の事態を想定して備える。
さらに
・その災害が収束しないうちに、別の災害が二重三重と起き、“複合災害”となる。

災害大国と言われる日本では、常にそうした事態“複合災害”を想定しておく必要があるわけです。

被害を大きくする“複合災害”とは?

日本では、令和元年5月31日、防災基本計画が修正されており、以下の災害と対策について示されています。
・地震災害対策
・津波災害対策
・風水害対策
・火山災害対策
・雪害対策
・海上災害対策
・航空災害対策
・鉄道災害対策
・道路災害対策
・原子力災害対策
・危険物等災害対策
・大規模な火事災害対策
・林野火災対策
残念ながら、この防災基本計画の中に新感染症災害は含まれていません。厚労省の管轄に入るからでしょう。
しかし、上記災害の対策として「避難対策」が考えられる以上、避難所での感染症対策は不可欠です。

複合災害とは、複数の災害が同時に起きることで、特に自然災害の多い日本では警戒する必要があります。

阪神大震災は
“地震災害 + 大規模火災 ”

東日本大震災は
“地震災害 + 巨大津波災害 + 原子力災害”

西日本災害は
“大規模風水害 + 土砂災害”

複合災害だった。

新型コロナ感染症が蔓延し、集団感染(クラスター)が把握できない感染例が増えている今、収束の見込みはかなり先と言わざるをえません。

梅雨の季節になれば、梅雨前線が活発になるでしょう。
ゲリラ豪雨や線状降水帯の圧倒的な降水量が、昨年の風水害で弱った土壌を襲えば、避難所への退避も必要となるでしょう。

しかし、今年は昨年までに意識されなかった課題が新たに浮かび上がってきます。“複合災害としての新型コロナ対策”です。

REISAさんによる写真ACから

新型コロナ感染症における複合災害化の危機に備える

これまでの風水害や地震の際も、感染症リスクはたびたび懸念されてきたものの、自治体や企業の備蓄や対策、そして日本人特有の行き届いた衛生観念によって、感染症リスクを最小化することができました。

ところが、今回は新型コロナ感染症という一種の災害が先に起きてしまっています。このリスクを収束させる前に、予期せぬ地震や、近年多発している風水害(梅雨前線、ゲリラ豪雨、台風、線状降水帯、大停電など)が起きる可能性は十分にあると考えるのが現実的です。

現に、ここ最近緊急地震速報が鳴る回数が増えています。もちろん、いまだ続く東日本大震災の余震も含まれてはいますが、首都直下地震や南海トラフ地震への警戒も強まっています。
新型コロナ対策で持てる備蓄を放出した自治体・団体・企業もあるかもしれませんが、避難所や避難のしかた、備蓄など、“複合災害のリスク”に備えてあらためて確認しておきたいことです。

特に今は、「三密を避ける」意味で、防災訓練を中止している地域や、実施されても少人数で行う地域がほとんどで、どうしても住民全体の警戒心が弱まりかねません。

しかし、備えなしに起きれば例年以上に被害が拡大することは明らか。
例年ならボランティアの受け入れも考えられますが、感染症被害が鎮火していなければ、地域間同士の交流が抑制される可能性もあります。となれば、自主運営でも乗り切れる、タフな体制が必要です。

そのためにも、自治会や住民に対して、平時にこそ準備しておきたいことを確実に呼びかけておきたいもの。

●ハザードマップの再確認と自宅待機中感染者への呼びかけ
台風接近時には自宅が危険エリアになりそうな自宅待機中の感染者への移動呼びかけと注意喚起を早めに呼びかける。

●自助・共助を促進する工夫
自治体の人的資源にも限りがある。台風などあらかじめ予測のつく災害もあるので、昨年以上の情報収集を呼びかける。
高齢者施設などは急な非難が難しいので地域の消防団などにあらかじめ協力を呼びかけ、対策を話し合っておく。
一般の感染していない人へはあらかじめハザードマップ確認と安全な待避所(親戚・知人宅など)の確保を呼びかける。

●“三密”を回避するための避難所の拡大
・新たな避難所
社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保つために、避難者同士を分散させる必要がある。相応数の避難所が必要。

これまで避難所として使われていない施設、廃校の活用も検討。
特に、感染者が出た場合の待機用隔離スペースを安全なエリアに確保。
新型コロナは、犬への感染も確認されており、ペット対応も合わせて検討。

・従来避難所
それまで使用していないスペースの拡大を検討。体育館だけ使用していた学校では、教室の使用も検討。階数ごとに感染者、非感染者と分ける。非感染者空間であっても、ついたてやビニールシートなどで接触や飛沫感染を防止。
ウィルスは時間が経つと床に落ちるので、マットレスではなく、ベッドの方が良い。

●感染症対策の備蓄
マスク、消毒薬、体温計、衛生用品など引き続き備蓄。
加えて、感染症対策の防護服や手袋、衝立、ビニールシートなど。
特に感染症対策で重要な「手洗い・うがい」が、断水下で難しくなる懸念もある。飲み水や除菌シートなども用意しておきたい。

●住民個人の備蓄
備蓄に関しては自治体だけでは困難が予想されるため、住民個人の備蓄が必要なことも周知しておきたい。
現在「買い物は3日に1度に」など自治体からの呼びかけもあり、すでに相応の食料を備えている家庭は多いかもしれない。
急に買いだめするのでなく、日頃の暮らしの中で使いながら備蓄する“ローリングストック”の習慣付けをこの機会にすすめたい。

●熱中症対策
扇風機・空調・空気清浄機など点検、整備し、二次災害を防ぐ。

自粛疲れで投げやりにならない。正常性バイアスを避け積極的に身を守る

「もう自粛自粛で疲れたよ。このうえ台風なんか来たら身が持たない。考えたくもない」
「これまで乗り越えられたから、きっと大丈夫」
「新型コロナにはかかる気がしない。密の避難所に言っても自分だけはうつらないと思う」
こんな意見もあるかもしれません。

人は、自分だけは大丈夫だと思いたい“正常性バイヤス”が働いてしまいます。
特に、新型コロナウイルスは目に見えない。
「もしかしたら自分はすでにかかっているかもしれない」という認識を持つことは難しいかもしれませんが、あえてその前提で周囲の大切な人たちや高齢者に「感染させないようにしよう」と備えておく考え方が大切です。

自暴自棄になったり、あえて無関心を装ったりしても、災害は否応なくやってきます。無駄に恐れれるのではなく、最大限の警戒をすることで、全体が見えてくるでしょう。早くから備えれば、対応できることは多いのです。
緊急事態宣言の延長で、国民の多くはどうやら図らずも自由な時間を手にすることとなりました。今その手にある時間を、考えるために、未来を守るためにどうか使いたいものですね。